ちょっと流行の波に乗り遅れた話をしたい。
ゆるキャン△
流行ったね。
めちゃめちゃ流行った。
漫画は夫が買っているのでそれを読ませてもらったし、アニメも全部見た。
なんならふもとっぱらも行った。
(人が多すぎて死にそうになった。富士山は最高だった。)
ワシらキャンプライダーの時代が来たな、と、鼻息が荒くなった。
そう、ワシがしまりんじゃ。
コミックス1巻、
しまりんとなでしこが出会うシーンがある。
ソロキャンをしていたしまりんが、うっかり寝過ごして帰れなくなったなでしこを見つけ、一緒にカレー麺を食べる話だ。
既視感があった。
状況は違うけど、似たシーンを経験したことがある。
彼とは愛媛のキャンプ場で出会った。
その日は四国をブラブラとひとりでツーリングしていて、
「愛媛といえば道後温泉♥」
なんて、温泉に入るぞ〜!と張り切って来たのに玄関前の行列、数時間待ちのおしらせに心がペキっと軽い音を立てて折れた。
風呂にそんな時間かけてたら日が暮れてまうわ。
仕方無しに近くにあった新館っぽい温泉に入って、ちょっとしょんぼりとキャンプ場へ向かった。
※バイク乗りは色んな地域に行っているけど、人混みを避ける傾向にあるから観光名所には疎いぞ!!
そのキャンプ場は運動公園みたいな施設の中にあって、バイクの乗り入れは不可。
荷物の運搬用にリアカーの貸出があったから楽勝と思っていたら、指定された設営場所は棚田みたいになったサイトの一番下の段だった。
うげぇ…
結局手で運ばなければいけない。
重い荷物は膝に悪い。階段の登り降りなんて特に悪い。
勢いよく飛び降りたら膝のところで骨折れちゃうかも。やだ〜、こわい!!
1番上の棚田でズンズン重低音の効いた音楽を響かせパーティをする団体客を横目にヒィヒィ言いながら最下層へ降りると、2組の先客がいた。
ちょうど私の向かい側に父と子の親子、そして隣は留守のようだけど1人用の小さいテント。
ズンズン重低音が効いた音楽を流しそうにないメンバーにホッとする。
暗くなる前にさっさと設営をして薪を拾っていると、小さいテントの住民が帰ってきた。
男性。背が高い。どうやら外国の人っぽかった。
批判が来るかもしれないけど、ソロでキャンプをしている時は人数に関わらず、男性のみで構成されたキャンパーの隣に設営するのには、正直抵抗がある。
なんとなくだけど、自分が悪い人間だったとして、狙うなら腕力がない女性のひとり客だから。
世の中そんなに悪い人はいないってわかっているんだけどね。
過去に痴漢に遭った経験からも緊張と警戒をしてしまう。軽いトラウマみたいなものだ。
だから隣の彼とも話すつもりはなかったし、話しかけられたとしても適当に流そうと思っていた。
焚き火にあたりながら夕ご飯を食べている間も、隣のテントは暗かった。
栓抜きを忘れてビール瓶を開けるつもりが瓶をかち割るなどのトラブルを起こしながらも、ほろ酔いで食事を終えた頃、ハーモニカっぽい音が聴こえてきた。
どうやら隣の彼が演奏しているようだった。
「これ絶対いい人だわ。悪い人な訳がないわ。」
なんでだろう、急にそんな気がしてつい、話しかけに行ってしまった。
「一緒に焚き火に当たりますか?」
暗いテントから笑顔が返ってきた。
オレンジ色の炎に照らされた彼の顔は、よく見るとまだあどけなさが残る、人懐っこい雰囲気だった。
故郷の国を出て、日本の大学に留学をしているのだそうだ。
お湯を沸かし、お気に入りのブレンディ 桃の紅茶オレを作る。
控えめな甘さの中にほのかに香る白桃がドンピシャで、当時のキャンプ中はほとんどコレを飲んでいた。
しかし、なんでキャンプを??
「漫画で見て…」
はにかみながらテントへ入り、戻ってきた彼の手にはゆるキャンがあった。
なるほど、しまりん。
「僕の故郷ではキャンプは難しい。動物が出るから。」
「漢字が読めなかったけど、ゆるキャンを見て、日本ではできるって知った。テントとマットを買って、寝袋は大学から借りたんです。」
ポツリポツリと話す彼に、なんとなくなでしこを重ねた。
「この飲み物おいしいですね、なんていうんですか?」
翌朝、朝ごはんを食べている時に彼は荷物をまとめて帰って行った。
テントの入ったバッグとリュックサックだけの身軽な装備。
聞けば、山の上にあるこのキャンプ場までママチャリで来たらしい。
なでしこかよ。
あの日交換したSNSから、彼が時々キャンプをしているのを見る。
遠く離れた場所に住んでいるけど、また一緒にキャンプをしたい友人のひとりだ。
桃の紅茶オレは思い出の味になり、キャンプの度に飲んでいた。
桃の紅茶オレは、私にとってはあの、しまりんとなでしこのカレー麺だった。
それなのに、桃の紅茶オレは廃盤になってしまったようだ。
どこで探してももう見つからない。
プレーンの紅茶オレを試してもみた。
でも、あれじゃない。
ブレンディさん、私のカレー麺…じゃない、桃の紅茶オレを返してもらえないでしょうか。
大事な思い出なんです。
よろしくお願いします。