ひとりごと

バイクに乗ると決めた日

「あちぃ…」
駅前の百均で購入した麦わら帽子を少し上げ、汗をぬぐいながらつぶやいた。

5月。
温泉に行こう!と友人と出かけたハイキング。

初夏の日差しは暴力的だ。
日陰に入れば心地よく爽やかな風が吹くのに、ひとたび日なたに出ればあっというまに全身の毛穴から汗が滝のように噴き出るのだ。

「5月ってこんなに暑かったっけ?」

ボヤきながらも、友人と喋りながら歩くのは苦ではない。
出会って3年目。
特に何があるわけでもない、ただの道を10km散歩する企画に乗ってくれた、類友だ。
「ミミズが死んでる!」とか「お花咲いてる!」とか、他愛もないことで盛り上がった。

それにしてもだ。こんなに日影がないっていうのは想定外だった。
遠くの道には蜃気楼まで見える。

いいよな、屋根を作ってもらえる奴は。

 

持参したお茶を飲みながらも歩を進める横を、2台の風が通り抜けた。

「バイクだ!いいなあ~!!」
大型のツアラーバイクだったと思う。

だったと思う、というのは、当時の私は全くもって乗り物に興味がなく
「バイクといえばヤンキーが乗るもの」みたいな前時代的なイメージしか持っていなかったためだ。
ちなみにもちろん、車の免許はAT限定。
二十歳の時に幼馴染に誘われて佐世保の合宿免許でゲットした。ワオ。

 

 

2台の後姿はあっという間にゴマ粒ぐらいの点になった。
取り残された風も、熱で揺れる空気に溶けてなくなった。

「うん。私、バイクに乗るわ!」

急に思った。
バイクに乗るべきだって、神様が言ってる気がした。

「え?!マジか!」
「すごい~!!がんばってはるかちゃん!」

類友たちは最初はビックリしたみたいだけど、すぐに応援してくれた。
今思えば、人生がちょっぴり軌道を変えた瞬間だった。

 

 

白状してしまうと、実はこの出来事以前、
既に二輪教習の申し込みは済ませてあって、実際に2,3回通ったあとだった。

田舎に住んでいたため足として原付が欲しくなったから。
リトルカブとかいいなあ、なんて実際にバイク屋さんを覗きに行っていたのだけど、
法定最高速度が30km/hと聞き、無理に決まってんじゃん、と新たに免許をとろうとしていたのだった。

欲しかったのはホンダのフュージョン。レトロな外観がかわいかったのと、ヒールの靴が履けなくなるのが嫌で、スクーターはマストだと思った。(当時は小型バイクの存在を知らなかった…!)

MTバイクのデザインには食指が動かなかったのでAT限定にしようとしたのだけど、既に免許を持つ友人にMTを強く勧められたので回避できた。
乗ってわかる。AT限定はやめた方がいい。特にバイクに関しては。

 

さて、話を戻そう。
ハイキングに行く頃には私はすっかり教習に通うのをやめ、半年近く放置をしていた。
初めてのクラッチ操作、つま先立ちで跨る重い車体、挫折をする理由なんていくらでもある。
とにかく1度はとろうと思った二輪免許も、もういいやって諦めたあとだったのだ。

 

 

ハイキング後の温泉は格別だった。
スッキリした頭で改めて「バイクに乗ろう」と思い、帰宅後さっそくパソコンを開き、教習の予約をした。

そして再開した教習。
相変わらず転倒は多かったし卒検も1回落ちたけど(道を間違えてパニクって転倒しちゃった)、2度目の試験でギリギリ合格できた。
飛び上がって喜んだなあ。

その2度目の卒検中に学生期間中ずっと遊ぶことになったバイク乗りの友人と出会い、
別の受験者を応援しに来ていた先輩ライダーから紹介してもらったお店でエストレヤに出会ったんだから、神様っているのかもしれない。

 

ギラギラと照り付ける太陽の下ぬるい風を浴びながら走っている時、時々脳裏にあの2台の後姿が浮かんでくる。
あの日の彼らみたいに、誰かの心に風を送れたらな。なんて思いながら。

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